国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)が実施する、官民による若手研究者発掘支援事業(以下、「若サポ」)は、大学等の若手研究者と企業との共同研究の形成を支援することにより、次世代のイノベーションを担う人材の育成と新産業の創出を目指しています。
本連載は、電子情報通信学会とのタイアップ企画として、産学連携に積極的に取り組む若手研究者の声を届けます。第3回は東京理科大学にて車載通信(V2X)や高信頼性通信、分散UAVネットワーク、デジタルツインの研究を牽引する中里 仁 助教へのインタビューです。
※中里先生は、「若サポ」の採択者ではありませんが、本記事では外部からの視点で、産学連携の価値や制度に寄せる期待をお話しいただきました。
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中里先生、電子情報通信学会、「若サポ」事務局へのお問合せは下記よりお願いいたします。
(委託事業者:野村総合研究所)
wakasapo-web-ieice-ext@nri.co.jp
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実装に効く「通信×モビリティ」の横断分野に挑む
— 現在どのようなテーマに注力し、どんな実証成果を上げていますか。
私の研究は、「通信技術を実際の移動体・空間にどう活かすか」を軸としています。代表的な柱は次の通りです。
- ミリ波V2X(車両向けの高周波帯通信):高速なビーム追従、ハンドオーバ、遮蔽検知と回避
- 高信頼性通信:通信事業者のネットワークを用いた冗長化通信
- 分散UAVネットワーク:強化学習・マルチエージェントによる配置・制御最適化
- デジタルツイン:都市3Dデータや実トラフィックを使った通信評価基盤
「現場で動く」ことを重視しており、シミュレーションにとどまらず、渋谷・新宿などで車両実測、企業と連携した物理層評価、実証実験の実施を通じて理論と実装を往復させています。
— 最新の成果を教えてください。
ミリ波V2Xでは、深層強化学習などを用いたビーム追従方向を制御するアルゴリズムを開発しました。国際会議での発表・受賞にもつながり、高次元のデジタルツインを用いた遮蔽検知予測制御の共同特許出願を行いました。
高信頼性通信では、都市部で車両を用いた実験により、単・複数回線活用でパケットロス率の抑制が可能なことを証明しました。通信事業者との共同研究により物理層の遅延要因を突き止め、オーバーヘッドを低減する改善につなげています。
分散UAVネットワークでは、深層強化学習を適用し、UAV数削減やバックホールの無線通信品質確保などを同時に満たす報酬を設計し、3D空間での協調制御をシミュレーションにより実証しました。都市デジタルツインでは、実建物・道路・交通量を反映した仮想都市空間でLOS/NLOS判定や将来経路予測を組み込み、ハンドオーバや遮蔽回避の検証を可能にし、多数の国内・国際学会での受賞につながっています。
出会いと「小さく動かす」スタート
—企業と共同研究を始める際、大切にしていることは何ですか。
企業と組む意味
— 研究のどんな部分で、企業と組む意味を感じますか。
例えばミリ波V2Xには、無線制御、道路交通、車載制御、コンピューティングが交差します。こうした複合領域では、企業は現場知識や規格への適合性・量産化のノウハウを提供し、大学は原理検証や新しいアルゴリズム、人材育成を担うことで、新たな価値が創出されると考えています。役割が異なるからこそ相互補完になります。
都市デジタルツインのような基盤は、企業には製品検証・開発の場を、大学には研究・教育の場を提供し、産学の橋渡しになります。
— 中里先生個人としては、どのようなスタンスで産学連携に取り組まれていますか。
私はまず、面白いなと思うことが研究の最初のモチベーションです。モチベーションがないと物事は進まないので大事です。そして、産学連携のテーマは面白いです。やはり企業は業界の中で多くのステークホルダーと関係しているので最新の情報を持っています。大学ではなく企業にしかない最新情報がたくさんあります。そういった情報を交換しながら研究開発していくことに魅力を感じています。
協働の壁と乗り越え方
—共同研究でつまずきやすいポイントと、その回避策を教えてください。
企業が研究者にやって欲しいことと、研究室にいる学生がやりたいことの間に立つのは実は意外に難しいです。さらに学生は卒業してしまうので、人員が年単位で入れ替わる中でどのように共同研究のノウハウを貯めていくのかも検討しなくてはいけません。企業との共同研究のスケジュール設計において、学生の卒業時期などを考慮することも必要になってくるかもしれません。研究室に今どのような学生がいて、いつまでいるのかを踏まえて共同研究を設計することはコツだと感じています。
またフェーズでいうと、プロトタイプから製品化に進む際に根幹の技術が当初想定ほど効果を発揮しないということもあります。当初予定していた技術を活用してみたものの、プログラムが動かなかったりバグがあったりすることはあります。そういう時は、プロトタイプで用いていた方法は諦めるという判断も必要になります。論文をサーベイし、学会に足を運ぶなどして、最適な技術にアップデートしていくことを、プロジェクトチームとしてコミュニケーションを取りながら進めることが重要だと考えています。
今後のマイルストーンとビジョン
— 今後の技術的なマイルストーンや長期的な展望を教えてください。
短期的には、構築した都市デジタルツイン基盤を使った大規模実証を行います。ここでは、AIを活用した遮蔽検知アルゴリズムやハンドオーバ制御の検証が中心です。期間としては1〜2年を目処に、企業や自治体との共同プロジェクトで展開していきたいと考えています。
中期的(2〜5年)には、分散UAVネットワークの社会実装を進めます。防災、物流、通信バックホールなど具体的なサービスシナリオに落とし込み、都市・郊外・山間部など異なる環境での性能を実証します。また、ミリ波メッシュによるカバレッジ拡張についても、スタートアップや通信事業者と組んでサービスやインフラに組み込む計画です。
長期的には、通信とセンシングが双方向で支援し合う都市レベルの統合基盤を実現したいと考えています。通信がセンシングを助け、センシングが通信を最適化するような関係を作ることで、交通制御、防災対応、エネルギー管理など、多様な都市機能をリアルタイムに統合する未来を描いています。これを産学官で構築し、10年スパンで社会に定着させたいと考えています。
企業・若手研究者へのメッセージ
—産学連携を成功させるために、企業と若手研究者それぞれへメッセージをお願いします。
企業の皆さんとは、互いの強みを活かしながら一緒に進んでいければと思っています。大学側には、学生や研究者の人的リソース、先端的な設備、自由な発想といった特徴があり、比較的限られた予算でも大きな成果を目指せる環境があります。そうした力をより発揮できるよう、到達点や評価の基準、必要なデータや設備、知財の取り扱いなどを早めに一緒に整理していただけると、とても助かります。また、現場特有の制約や規格に関わる情報も、初期の段階で共有いただけると、無駄な手戻りを減らし、お互いの時間やコストを守れます。
繰り返しになりますが、まずは「小さく始めてすぐに動かす」ことです。完璧な計画を練り上げるよりも、小規模でも動く試作やデータを早めにお見せできる方が、具体的かつ本質的な議論につながります。そうした早期の成果が信頼関係を築き、プロジェクト全体を前に進める力になります。
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電子情報通信学会(IEICE)は、電子工学・情報工学・通信工学を中心とした 日本最大級の学術団体で、研究成果の発信や学術講演会を通じて最先端技術の創出と研究者交流を支えています。若手研究者の活躍と産学連携を重視する若サポにとって、IEICEの研究コミュニティは技術シーズ発掘や企業との協力推進に役立つ重要な基盤となります。








