【電子情報通信学会 タイアップ】気鋭の若手研究者が語る「産学連携のリアル」 Vol.4 理論から実証までを見据えるアンテナ研究―宇宙からテラヘルツ通信まで

2026.02.27 Fri

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)が実施する、官民による若手研究者発掘支援事業(以下、「若サポ」)は、大学等の若手研究者と企業との共同研究の形成を支援することにより、次世代のイノベーションを担う人材の育成と新産業の創出を目指しています。

本連載は、電子情報通信学会とのタイアップ企画として、産学連携に積極的に取り組む若手研究者の声を届けます。第4回は東京科学大学にて通信・宇宙・高周波アンテナ分野で活躍する戸村 崇 准教授に、最前線の研究テーマと産学連携を前進させるための実践知について伺いました。

※戸村先生は、「若サポ」の採択者ではありませんが、本記事では外部からの視点で、産学連携の価値や制度に寄せる期待をお話しいただきました。

—————————————————————————————————————————
戸村先生、電子情報通信学会、「若サポ」事務局へのお問合せは下記よりお願いいたします。
(委託事業者:野村総合研究所)
wakasapo-web-ieice-ext@nri.co.jp
—————————————————————————————————————————

電波×アンテナを、宇宙から高周波デバイスまで一気通貫で

—まず、研究テーマの全体像を教えてください。
私たちの生活の多くは電波とその出入口であるアンテナに支えられています。身近な携帯電話にはじまり、無線通信・放送、レーダー、GPS、非接触ICカード、電波時計、電波天文、無線電力伝送など、用途は非常に幅広い。私の研究室では、この「電波×アンテナ」を宇宙衛星からミリ波・サブテラヘルツ帯の端末まで一気通貫で扱っています。またアンテナの構造やアンテナへの信号伝送で重要な役割を担う電磁構造(電磁波を伝える仕組み)の研究も含みます。
柱はおおむね5つです。

  • 超小型衛星(CubeSat/SmallSat)向けの折り紙展開リフレクトアレー(膜状アンテナを小さく折り畳んで打ち上げ、軌道上で展開)
  • 端末内蔵に向けたミリ波・サブテラヘルツ帯アンテナ(例:160GHz、350GHzなど)
  • リフレクトアレー/トランスミットアレーの高性能化
  • 無線電力伝送用アンテナ(ラジアルラインスロットなど)と高周波材料の電磁特性評価
  • 超高速な電磁界解析・評価手法の開発

一般に周波数が高いほど通信に使える周波数帯域幅が広く取れ、単位時間あたりに送れる情報量は増やしやすい。そこで、より高速な通信を可能にするために高い周波数帯のアンテナ設計に注目しています。一方で、衛星向けの膜アンテナのように「とても薄く軽いのに、きちんと通信できる」という、新しい発想の構造を提案しています。

実証が進む折り紙展開アンテナ

—最近の研究成果で、手応えを感じた事例はありますか。
超小型衛星ミッションで、折り紙展開の膜状リフレクトアレーを0.6U(10cm×10cm×6cm)相当の収納体積に収めて、軌道上で展開する技術の開発を進めています。アンテナ面は展開時には約45cm×45cmと大型ですが、ポップアップ機構と伸展ブームを組み合わせ、二層式の「飛び出す絵本」方式により軽量・高収納率を両立させました。C帯(5.8GHz)で高利得を得ることで、20Mbps級のダウンリンクを目標にしています。
課題だった「展開後の面の非平面性(でこぼこ)」による利得低下については、バラクタダイオードによる非平面補償(アンテナ特性の再構成)を試作で検証し、利得低下の抑制に手応えを得ました。薄い膜でも、非平面補償を適切に行えば、十分なアンテナ性能が引き出せることを確認できたのは大きな前進です。

東京科学大学 戸村崇
折り紙展開アンテナ

スモールスタートから拡大する産学連携

—これまでの産学連携事例はどのようなものがありますか。
衛星ベンチャーや大手企業と複数の連携を進めています。最初は衛星事業会社から相談を受け、大学と企業のアンテナ・無線チームと技術検証を開始。その後、公的研究枠組みに切り替え、代表企業のもと複数社が加わり、衛星間・衛星—地上間の高速通信、さらには光無線通信も組み合わせたテーマへと拡大しました。
また、展開構造・機械要素・材料・高周波設計の複合最適化が必要な案件では、機械系・材料系の研究者と学内連携し、展開機構や材料安定性まで踏み込んでいます。

「宇宙×通信」で拓く境界領域の可能性

—なぜ、この分野(通信×宇宙・衛星・高周波アンテナ)で産学連携に挑むべきなのでしょうか。
衛星通信や高周波アンテナの分野は、大学だけでも、企業だけでも完結しにくい領域だと感じています。例えば、衛星向けに検討したアンテナ技術が、地上のミリ波・サブテラヘルツ帯通信に応用できることもありますし、その逆もあります。こうした境界領域を行き来できる点は、企業にとって技術の横展開につながる可能性があります。また、宇宙や高周波といった実課題に触れることは、若手技術者の育成にも意味があると感じています。大学側にとって、論文・特許だけでなく、実際に軌道上で動かす機会を得られることは大きな価値です。双方が補完し合える関係にあると感じています。私は企業でのR&D経験をベースに、「研究だけで終わらせない」意識で共同研究に向き合っています。大学の研究者も、論文・教育・学会で忙しくとも、産学で一緒に進める意義は大きいと感じています。

—この分野で、産学連携でこそ取り組むべきテーマはありますか。
超小型衛星向けの折り紙展開リフレクトアレーは、宇宙折り紙(展開構造)×高周波アンテナ×材料×衛星システムの融合が不可欠で、産学の多主体連携が前提になります。地上側では160GHz帯端末アンテナや350GHzクラスの導波管スロットアレーなども、材料・プロセス・評価設備の事情が絡みます。光無線通信とのハイブリッド化や、地上—衛星の一体設計もホットな連携テーマです。

行き詰まりやすいポイントと、その突破口

—産学連携/企業の新規事業が進まない主な理由は何でしょうか。研究段階と製品化段階の違いも含めて教えてください。
産学連携や新規事業が思うように進まない背景には、フェーズごとに異なる難しさがあると感じています。初期段階では、到達目標のすり合わせが十分でないことや、課題設定が曖昧なまま議論が進んでしまうことがあります。中盤では、評価設備やデータの不足、あるいは意思決定プロセスに時間がかかることがボトルネックになる場合もあります。後半になると、知財や規格、評価基準の整理が追いつかず、最終的な実装に向けた詰めで難航することも少なくありません。
研究段階は概念実証(PoC:Proof of Concept)で進めますが、製品化段階では安全試験、法令準拠、規格、耐環境、小型化などの制約が一気に増えます。宇宙分野では特に、想定される限りの試験を地上でやり切り、問題があれば潰し込むことが重要です。時間=コストに直結するので、スケジュールとリスクの見積もりを早く具体化できる体制が必要です。

—この分野ならではの難しさ(設備条件、安全面、規格面、コストなど)はありますか。
高周波分野では、専用部材や加工プロセスが高価で、供給体制も限られている場合があります。そのため、技術的に優れた方式であっても、安定した供給やコスト構造まで含めて設計できるかどうかが重要になります。エコシステム全体を見据えた検討が求められる点は、この分野ならではの難しさだと感じています。宇宙側は量の少なさで単価が下がりにくく、規格・安全・信頼性の要求水準が高い。だからこそ、研究段階での構造設計の詰めが重要な意味を持ちます。

—こうした課題に対する、現実的に効く打ち手は何でしょうか。
小さく始めて早く測る、このサイクルを回していくことです。まずはスコープを絞って概念実証を行い、達成すべき性能や評価指標を早い段階で具体化します。設備共有やデータ管理の条件は初期に合意する。意思決定のマイルストーンを短く取り、上長承認が必要な事項は早めに材料を整える。知財は早期に整理し、公開・出願の順序も決めておく。これだけでも進行は目に見えて良くなります。
また、最初の全体像設計の段階で企業と大学で適切なコミュニケーションを取ることは非常に重要です。企業が思い描いている全体像に対して、大学側はそれを理解して受け入れるだけではなく、本当にそれが良いのか疑問がある部分は議論をしてクリアにしておくべきだと考えております。結果として計画がブラッシュアップされることは企業にとってもメリットになります。双方の思いのズレを早い段階で調整する、というのは結果的には手戻りをなくしてくれます。

とくに初めての企業との連携においては、最初の1〜2か月で小さな試作や実測データを提示し、到達目標・スケジュール・コスト・リスクの仮説を共有することが重要です。企業の期待値と研究側の見通しを早い段階で「噛み合わせる」ことで、予算化や組織体制づくりを前倒しできます。

企業との協働を成功させるために

—初めて組む企業にお願いしたい準備はありますか。
大学の強みは、最先端の知見・人材・設備への短時間アクセスと、原因解明に強いことです。大学の多彩な人材を活用し、定式化・解析・測定までよどみなく一気通貫で支援できます。企業にお願いしたいのは、求める到達点と評価指標の明確化、必要なデータと設備の洗い出し、意思決定の窓口・頻度の設定、知財方針の事前合意です。以前、アンテナ仕様が曖昧なまま進めて手戻りが増えた例がありました。アンテナ仕様や測定条件のような専門領域は、最初から大学側にきっちり委ねてもらう方が全体最適になります。

—3〜5年のマイルストーンと長期ビジョン、企業と一緒に実現したいテーマを教えてください。
近いところでは、折り紙展開リフレクトアレーの軌道上実証をやり切ること。並行して、サブテラヘルツ帯アンテナの小型・高効率化、平面アレー(リフレクト/トランスミットアレー)の高性能化、高周波材料の電磁特性評価と測定法の洗練を進めます。長期的には、宇宙側の高速通信インフラ(衛星間・衛星—地上)、資源開発・製造・発電といった活動を支える通信・電力伝送の基盤を、産官学で形にしたい。月・火星の拠点化まで見据えると、企業と組んだ打ち上げ・運用の体制づくりは不可欠です。

—これから産学連携に挑む企業/研究者へのメッセージをお願いします。

完璧な計画が整ってからでなくても、まずは小さく始めてみることが大切だと思います。初期段階でフィードバックを得ながら、到達目標や評価指標を共有し、徐々にスコープを広げていく。そのプロセスの中で、企業の事業機会と大学の研究機会は自然に重なっていきます。産学連携は、互いの強みを持ち寄ることで初めて前に進みます。ぜひ一緒に、新しい価値を形にしていければと思います。
東京科学大学 戸村崇

—————————————————————————————————————————
電子情報通信学会(IEICE)は、電子工学・情報工学・通信工学を中心とした 日本最大級の学術団体で、研究成果の発信や学術講演会を通じて最先端技術の創出と研究者交流を支えています。若手研究者の活躍と産学連携を重視する若サポにとって、IEICEの研究コミュニティは技術シーズ発掘や企業との協力推進に役立つ重要な基盤となります。

P I C K U P C O L U M N

注目記事

コラムTOPへ戻る