企業との「共創」を成功させる4つのステップ ―URAの役割と、大阪公立大学が挑む組織づくり―

2024.12.12 Thu

大阪公立大学は、2022年に大阪市立大学と大阪府立大学が統合して設立された新しい大学です。大阪の発展を牽引する「知の拠点」を目指し、産学連携、スタートアップ支援に積極的に取り組んでいます。こうした活動の推進には、大学に所属するURA(University Research Administrator)の役割が非常に重要です。大阪公立大学のURAは、企業と大学の間に立つ第三者の立場で橋渡し役を担い、産学連携を円滑に進めるだけでなく、一つのプロジェクトを起点に新たなプロジェクトを生み出す役割も担っています。
今回、その取り組みについて、産学官民共創推進本部の本部長を務める藤村副学長と、2019年に大阪府立大学にURAとして着任し、現在は研究推進機構で産学連携担当の特任教授を務める上田氏に、話を伺いました。

産学連携における「共創」の重要性

―産学連携を円滑に進めるために、URAのような第三者が介在することの重要性についてお聞かせください。

大阪公立大学 藤村紀文
藤村
かつては、企業が基礎研究を進める中央研究所等を保有しており、大学から研究成果を「バトンリレー」のように受け取り、自力で実用化まで繋げることができました。しかし、現在は多くの企業で研究開発リソースが縮小していることもあり、大学から研究成果を受け取っても一企業の力だけで事業化まで実現することが難しくなってきています。

このような状況下で、研究成果と事業化の間にあるギャップを埋める第三者の役割が、より重要になっていると考えています。この第三者の役割を別の研究機関が担うこともあれば、スタートアップが担うこともありますが、いずれにせよ重要であるのは、研究者・企業・第三者が協力し、共にイノベーションを生み出し、新しい価値を社会に提供することです。大阪公立大学ではこのような共創活動を強力に推進しています。

大阪公立大学 上田豊
上田
産学連携の最終的な目的は、大学の研究成果を事業に繋げることです。私たちURAの役割は、企業と共に社会実装に向けた活動を進めることだと考えています。とくに近年は社会課題が複雑化しており、社会実装に向けてより密接な協力関係が求められるようになっています。その中で、単なる「バトンリレー」ではなく、持続的な「共創」が、ますます重要になっています。

藤村
その通りです。社会課題が複雑化する中、これまで以上に多くのステークホルダーが関わり、多層的に連携する必要性が生じています。大学においても、どのようなタイミング・方法で共創を拡大していくべきかの判断力が求められています。

企業との共創を成功させる4つのステップ

―産学連携に関わるお仕事をされている上田さんの視点から、企業との共創を成功させるためのポイントを教えてください。

上田
URAが産学連携を成功に導くための活動には、4ステップがあると考えています。まず、ステップゼロとして、「研究者との信頼関係を築くこと」があります。あえて「ステップゼロ」と呼んでいるのは、この信頼関係がなければ、その後の活動を順調に進めることが難しいためです。研究者と信頼関係を築くためには、まずURAが研究者をリスペクトすること、そして研究者からリスペクトされることが重要です。そのために、研究者の活動を後方支援する「サポート」ではなく、研究を理解し、能動的に価値を提供する「ギブ」の姿勢を大切にしています。「自分が研究者にどのような価値を提供できるのか」という視点を常に持って研究者と向き合うことが、プロジェクトを成功させるための出発点だと考えています。

―研究者との信頼関係を築いた後のステップについても教えてください。
上田
ステップ1は、「社会実装のゴールイメージと目標を明確にすること」です。研究者は学術的に素晴らしい知見・専門性を有していますが、私たちURAはそこに企業側の視点を補って、事業化に向けた仮説を立てる役割を果たします。私は企業で約30年間にわたりものづくりに携わってきた経験があるため、企業側のニーズや期待を理解できます。この理解をもとに研究者と企業の双方のイメージをすり合わせ、議論のたたき台となるゴールイメージを提示するようにしています。

続いてステップ2は「プロジェクト期間中に生じるリスクを低減すること」です。研究者も企業も、各々が異なる背景や事情、思惑を抱えて共同研究が組成されるため、いざプロジェクトがスタートすると、双方にとって非定型的な共同作業のなかで進捗状況や方向性が見えにくくなり不安を感じることが多々あります。これが後のリスク要因になり得るため、時機を得た対策が必要です。例えば、プロジェクトの開始時には情報共有の仕組みづくりを行います。プロジェクトの規模にもよりますが、目的・参加者ごとに異なる会議の設置、タスクリスト・メンバー表の作成等、それぞれの活動を可視化・共有するための仕組みを整えるようにしています。企業側からは、大学内でどのメンバーが何を担当しているか見えづらいことが多いため、それを明確にすることも私たちの役割だと考えています。ただし、URAが前面に出る状態が続くと、かえって当事者間の連携に支障をきたすこともあるため、プロジェクトが順調に進み始めたら少し引いて見守るようにしています。このように、プロジェクトの段階ごとに「温度感」を見極め、緩急をつけることも重要です。
また、プロジェクトの日々のコミュニケーションを支援することもURAの役割です。例えば、企業側が研究者に遠慮して聞きたいことを直接聞けないというケースは、よくあります。そのような場合には、私たちが企業の代わりに研究者に質問します。その際に、企業側の意図を研究者に正確に理解してもらえるように伝え方を工夫することもあります。このように、お互いの立場や言葉を橋渡しすることが、産学連携を成功させる上での大きなポイントです。

最後に、ステップ3は「プロジェクトに新たな展開をもたらすこと」です。飛行機に例えると、ステップ1は「目的地を決める」段階、ステップ2は「飛び上がって加速していく」段階と言えます。ステップ3は、「新たな燃料を投下して高度を上げる」段階と言えます。ステップ3では、進行中のプロジェクトを単発で終わらせないために、新たな接続点を多く作り出すことが重要です。例えば、NEDO「若サポ」事業に採択された、床波志保先生のプロジェクトでは、微生物が水を浄化する際に発生する電力を利用する「微生物発電システム」を開発しています。この技術を中心に、社会実装時のバリューチェーンを検討してみると、技術の研究開発に関わるパートナーに加えて、上流では、水質浄化に取り組んでいる企業や研究者と新たな共同研究を立ち上げることが考えられますし、下流では、微生物発電システムに適した用途を実現するための協業や実証を行うことも考えられます。さらに、微生物の集積技術を生体の腸内環境の再現に利活用するなど、他の用途に横展開できる可能性もあります。
(左)大阪公立大学 藤村紀文(右)大阪公立大学 上田豊

こうした仮説を立て、関連するプレイヤーに声をかけることで、接続点が増え、さらなる技術の共有や新たな用途を生み出すことができます。また、こうした活動を通じて、研究者のプロジェクトの拡張や深化に貢献することも、URAの重要な役割だと考えています。

共創を支える組織の力

―URAが活躍するためには、大学の組織・環境づくりも重要だと思います。これに関して、大阪公立大学の取り組みをお聞かせください。

大阪公立大学 藤村紀文
藤村
大阪公立大学は、産学官民が共創を推進するための拠点として「イノベーションアカデミー」を設立しました。イノベーションアカデミーでは、大学内のネットワークを有機的に活用し、各キャンパスのアセット、各分野の専門知を統合した「総合知」により、地域の発展と世界レベルの課題解決に向けたプロジェクトに取り組んでいます。

また、2024年4月には「産学官民共創推進本部」を設立し、学長のリーダーシップのもと、必要な資金と優秀な人材を集めるための活動を推進しています。社会実装に向けた活動は常に挑戦と失敗を伴うものですが、研究者や大学が挑戦を続けるために、そして最終的にゴールを実現するためには、資金も必要です。大阪公立大学は令和5年度文部科学省「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」に、公立大学で唯一採択されました。こうした政策の後押しも受けて、大学が挑戦を続けるための環境づくりを進めています。

―URAを雇用・育成するために、資金調達等を通じて環境づくりを進めることが、大学の重要な役割の一つなのですね。

藤村
その通りです。加えて、URAが実際のプロジェクトの中で構想する共創を実現する上でも、資金は重要になります。一方で、大学のリソースには限界もあります。リソースを拡大するための活動は続けながらも、限られたリソースで最大の成果を出すための仕組みづくりも進めているところです。

―具体的には、どのような仕組みづくりを進めているのでしょうか。

藤村
一つには、先ほど紹介したイノベ―ションアカデミーの設置により、URAが分野・組織横断的に活躍できる仕組みを整えることが挙げられますが、その他の特徴的な活動として、各大学の強み・特色を活かした大学間連携があります。大阪公立大学では、農学分野におけるURA支援に関して、長岡技術科学大学と大学間連携を図っています。長岡技術科学大学には農学部はありませんが、「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」などを通じて、農学分野のプロジェクトで支援経験・実績が豊富なURAが数多く所属しています。一方、大阪公立大学には農学部があるものの、農学分野に強いURAが多くありません。そこで、長岡技術科学大学では大規模農業、大阪公立大学では都市農業を主な研究テーマとし、各プロジェクトで長岡技術科学大学のURAと連携を図っています。
また、共創に取り組む学生・研究者の教育にも力を入れています。例えば、博士後期課程の学生に対して、自分の研究シーズの事業化に向けた企画を行う演習を提供しています。また、修士課程や学部学生に対してアントレプレナーシップを養うためのプログラムやカリキュラム等も提供しています。このプログラムでは、理系の学生と文系の学生が協力してプロジェクトに取り組んでいます。こうした活動を通じて、研究成果を社会にどのように役立てるのかという視点を早い段階から養うことが、大学と企業の共創を推進していく「風土」をつくる上で重要だと考えています。

大阪公立大学 上田豊
上田
企業との共創には「これをすれば必ず成功する」という王道の方法はありません。目の前のプロジェクトをよく分析し、その結果を踏まえて創発的に改善していくことが求められます。これは、現場レベルでも組織レベルでも、同じことが言えます。大阪公立大学は、他の大学に比べても柔軟な組織体制、オープンな文化があり、現場の声を組織の仕組みづくりに繋げやすいと感じています。こうした点が、大阪公立大学の強みの源泉になっていると思います。

藤村
私は、大阪公立大学の設立前は、大阪府立大学で産学連携を推進していました。その時の大学の規模は現在の半分程度でしたが、小規模だからこそ機動的に産学連携の推進に向けた活動を進めることができました。大阪公立大学となり大学の規模は大きくなりましたが、柔軟な組織構造を維持することの重要性を、学長をはじめとする経営陣はよく理解しています。今後もこの柔軟性を維持しながら、企業との共創をさらに強化していきたいと考えています。

産学連携を発展に導くURAの可能性

―最後に、他のURA、そして大学経営者に向けたメッセージをお願いします。

上田
先ほどお話したように、URAの活動の出発点になるのは、「研究者との信頼関係を築くこと」です。その意味で、もっと若い人たちにURAの世界に飛び込んでもらって、同じく若い研究者と長期的な信頼関係を築いてもらいたいです。URAの仕事は非常に刺激的で面白いですし、成長機会もたくさんあります。現在、企業に勤めている方も、URAをキャリアの選択肢として考えていただけたら嬉しいです。

藤村
上田さんのように、共創のプロセス全体を理解しリードできる人材は本当に貴重ですが、こうした意欲・能力のある人材が不足しているのが、多くの大学の現状です。こうした人材を大学に呼び込み育てることが、日本の産学連携を発展させる上での大きな課題だと考えています。私たち経営陣の役割は、こうした人材の処遇などを改善し、産学連携の現場をより活気のある場所にすることだと考えています。大阪公立大学では今後もそのための挑戦を続けていきますが、他の大学との共創活動の輪が広がっていけばと考えています。
(左)大阪公立大学 藤村紀文(右)大阪公立大学 上田豊