次世代を担う若手研究者と企業によるイノベーションの創出 ―マッチングの進め方のポイント―

2024.05.24 Fri

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)が実施する、官民による若手研究者発掘支援事業(以下、「若サポ」)は、大学等の若手研究者と企業との共同研究の形成を支援することにより、次世代のイノベーションを担う人材の育成と新産業の創出を目指しています。

今回のインタビューでは、大学等の若手研究者と企業が共同研究を締結するまでの過程や、「若サポ」によるマッチング支援の内容について、電気通信大学レーザー新世代研究センター特任助教 道根百合奈先生と、浜松ホトニクス株式会社(以下、浜松ホトニクス)中央研究所主任部員 玉置善紀氏に話を伺いました。(以下、敬称略)

革新的なガス光学素子でレーザー核融合の実現を目指す

浜松ホトニクス 玉置善紀
―共同研究の内容について教えてください。

玉置
当社はレーザー核融合※1の実現を目指しています。これを実現するには高いパルスエネルギーを持つレーザー光が必要です。しかし、一般にレーザー増幅器の中に用いられている光学素子は、強いエネルギーに耐えられず、必要な出力を得ることができません。今回の共同研究では、道根先生が世界で初めて開発した革新的なガス光学素子を用いて、核融合の実現に欠かせない高品質で高出力なレーザー光をいかにして得られるかを目標にしています。

※1 レーザー核融合:非常に高い出力のレーザー光を用いた核融合を指す。レーザー核融合からは大きなエネルギーが生じるため、次世代のエネルギー生成技術になることが期待されている。

道根
現在の高出力レーザー増幅器は、光学素子が熱を帯びるなどの影響でレーザー光の波面が歪んでしまい、きれいな波面を保ったまま増幅させることが難しいという問題点があります。これを解決するために、オゾン光学素子という新しい技術を取り入れて、きれいな波面のレーザー光を取り出そうとしています。波面がきれいになると集光特性が向上し、加工精度が高まったりレーザー出力が向上したりするなどのメリットがあります。
実際に共同研究で用いられる装置

メンターが共同研究の成立に向け伴走支援

―「若サポ」を知ったきっかけを教えてください。

玉置
レーザー核融合は世界各国が国家プロジェクトとして研究を進めていますが、社会実装に至るのは2030年代とも2050年以降とも予測されるほど、多くの解決すべき課題が残されています。それらを克服するには、社内の知識や技術だけでは足りないため、最先端の研究シーズや学術理論の理解が必要不可欠です。そこで社外の情報収集を進めていたところ、社内の産学連携を担当する部署から「若サポ」があることを教えていただきました。

道根
私は元々、自分の研究シーズを世の中に活かしたいという想いを抱いていました。そこで、企業との接点を求めてインターネットで企業検索をしたり、大学の教員に尋ねたりする中で、「若サポ」を知りました。NEDOは企業を支援する機構というイメージを持っていたため、大学等の若手研究者に焦点を当てている「若サポ」のような事業があることは意外で、嬉しい発見でした。

―道根先生は、「若サポ」のどのような点に魅力を感じられたのでしょうか?

電気通信大学 道根百合奈
道根
助成金はもちろんですが、企業との共同研究等のマッチングに向けたサポートを受けられる点に魅力を感じました。マッチングサポートでは事務局のメンターが伴走支援してくれるのですが、その方には、研究シーズを、企業の経営層にも響くように、端的に分かりやすくプレゼンテーションする方法などを教えていただきました。

マッチング成立のポイントは、目標実現に向けて時間軸を合わせること

―マッチング成立までの経緯をお聞かせください。

道根
マッチングサポートの一環で開催されたマッチングイベントでは、私の研究シーズがニッチな分野だということもあり、話を聞いてくれる企業はあっても具体的な進展はありませんでした。そこでイベント後にメンターと相談し、興味を持ちそうな企業に直接アプローチする方法に変更したところ、浜松ホトニクスさんとのマッチングが成立したのです。

―マッチングが成立した要因は何だったとお考えでしょうか?

道根
浜松ホトニクスさんが私の研究シーズの強みを高く評価してくださったことに加え、目標の実現に必要な期間について、双方の認識を合わせることができたことが大きかったと思います。

マッチングが成立しなかった企業との面談では、「将来的には必要になる技術だと思うが、長期間の投資は難しい」「1年間で製品化までしたい」など、短期間での社会実装を求める声が多く、企業側の意向と研究開発スケジュールが合わないことが大半でした。浜松ホトニクスさんは、私の研究シーズの社会実装に時間がかかることを理解した上で、長期的な視点での共同研究を提案していただきました。

玉置
私も同じ意見です。もちろん一番は先生の研究シーズが魅力的だったことが要因ですが、当該分野の研究開発には長期的な視点が必要であると認識していたので、道根先生と時間軸について共通認識が持てたこともマッチング成立に繋がった要因として大きかったと思います。

「若サポ」の出会いをきっかけに、共に社会を一変させるような価値実現を

―あらためて、「若サポ」の魅力とメリットをお聞かせください。

道根
いろいろありますが、共同研究等のマッチング成立に向けたサポートが充実している点や、企業との接点を増やせる点が大きなメリットではないでしょうか。先ほどもお話ししたように、メンターの方が伴走していただき、困ったことがあればすぐに相談することができました。また、マッチングイベントやWebサイトなどで若手研究者の研究シーズを発信する機会も多くあります。

当初、大学で研究に専念しているときは、似たようなことにチャレンジしている企業ならすぐに興味を持ってくれるだろうと思っていたのですが、多くの企業との面談を通じて、企業がどれだけシビアに社会実装の可能性を評価しているかを実感として学ぶことができました。このような気付きを得られる点も、「若サポ」の魅力です。

玉置
企業にとっては、自社単独では得られない最先端の研究シーズに数多く接することができる点、それらの分野を今後リードしていくであろう若手研究者と出会える点が魅力です。こうした研究プログラムへの参画を通じて、企業側の研究者の成長にも繋がると考えています。

また、「若サポ」の共同研究フェーズは、企業が拠出する金額と同額の助成金が、NEDOから大学に交付される仕組みとなっています。そのため、企業側の予算状況等も踏まえて柔軟にプロジェクトを設計することができます。このように自由度が高い分、共同研究の進め方に関するノウハウの獲得にも繋がりやすいと感じています。

―今後の展望や想い、他の研究者へのメッセージなどがあればお願いします。

道根
私は共同研究という枠組みを活用し、自分自身の研究シーズを世の中に広めていきたいと考えています。そして、「光学素子は壊れる」という従来の常識を覆し、ゲームチェンジすることを目指しています。

研究成果を論文発表だけで終わらせたくないと考えている若手研究者は、「若サポ」を活用した社会実装にぜひチャレンジしていただければと思います。起業という選択肢もありますが、既にある企業と協力できれば社会実装までの時間を短縮できると思います。また、将来的に起業を検討する場合も、共同研究を通じてビジネスの現場を知っておくことが役に立つはずです。

玉置
レーザー核融合はエネルギー問題の解決に寄与すると期待されており、世界中で注目を集めています。私たちの共同研究から世界をリードする技術や製品が誕生し、人類の社会生活が一変するような価値が日本から生まれる。そんな未来を実現していきたいと考えています。
(左)浜松ホトニクス 玉置善紀(右)電気通信大学 道根百合奈

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