若手研究者と企業による共同研究のススメ ―共同研究の意義と活動のポイント―

2024.05.24 Fri

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)が実施する、官民による若手研究者発掘支援事業(以下、「若サポ」)は、大学等の若手研究者と企業との共同研究の形成を支援することにより、次世代のイノベーションを担う人材の育成と新産業の創出を目指しています。

今回のインタビューでは、「カーボンニュートラル※1」をテーマとした共同研究のマッチング成立事例について、その成功の鍵や、共同研究を進めることのメリットなどを、大阪大学産業科学研究所 准教授 片山祐先生と、トヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ自動車) 先進技術開発カンパニー 先端材料技術部 技範 石切山守氏に伺いました。(以下、敬称略)

※1 カーボンニュートラル:特定の活動や組織が地球温暖化や気候変動を緩和するため、CO2などの温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする取り組みを指す。

カーボンニュートラル実現を目指す共同研究を開始

ー共同研究の内容について教えてください。

トヨタ自動車 石切山守
石切山
地球温暖化の原因の一つとされている二酸化炭素(以下、CO2)に焦点を当てたものです。自動車メーカーの多くは2050年までに「カーボンニュートラル」の達成を目指しています。しかし、自動車の製造や使用においては、生産ラインの稼働や燃料の燃焼によるCO2排出を回避することが非常に難しいという現実もあります。これに対して、10年、20年先まで見据えた取り組みが求められています。現在、CO2の排出量削減や吸収、除去など様々な取り組みが進んでいますが、今回の共同研究では、回収したCO2を資源として有効活用することを目指しています。
大阪大学 片山祐
片山
自然界では、植物が光合成によってCO2と水(以下、H2O)を利用してデンプンなどの有機物を作り出しています。それと同じように、人工的な方法でも、CO2とH2Oに含まれる炭素、酸素、水素の3元素を上手く変換することで、プラスチックや石油、ガソリン、樹脂類、糖類など、私たちの生活に欠かせない多くの物質を生成できると考えられています。

私の専門は電気化学で、特に触媒表面の界面で起きる反応をリアルタイムで可視化する技術を研究しています。この技術を活かして、CO2が触媒表面で目的の物質に変換する際に、具体的にどのような反応経路をたどっているのかを解明することで、目的の物質への変換に向けた「地図」をつくることを目指しています。

「若サポ」が若手研究者と企業が出会うための近道に

ー共同研究に至った経緯を教えてください。

片山
以前から、自身の研究シーズを社会に実装したいという想いがありました。そこで、企業との共同研究を考えましたが、出会う機会が少なかったため、企業とのマッチングを支援してもらえる「若サポ」の「マッチングサポートフェーズ」に提案し、採択されました。

マッチングサポートフェーズでは、マッチングイベントの参加や研究シーズに関心を持ってもらえそうな企業へのコンタクト、ウェブサイトへの研究シーズ掲載など、共同研究相手となる企業に出会うための支援を受けることができます。私の場合、これまで企業に研究シーズをアピールする機会が多くありませんでしたが、これらの支援によって企業から声をかけていただく機会が増え、最終的に石切山様と出会うことができました。私と同じような境遇にある研究者にとっては、「若サポ」が役立つと思います。

石切山
私たちは研究のヒントとなるアイデアを広く外部に求めています。そのため、論文を読んだり学会に出向いたりして、興味のある研究シーズや面白そうなことに挑戦している研究者を、年齢を問わず探しています。しかし、若手研究者は、キャリアの長い研究者と比較して接点を持つのは簡単ではありません。その点で、「若サポ」は若手研究者と企業を結びつけることができる有益な仕組みだと思います。

片山先生を知ったきっかけも、「若サポ」でした。研究のヒントを求めて技術探索を行う過程で、「若サポ」の仕組みを利用し、片山先生の研究に出会うことができました。

共同研究の成功の鍵は「密なコミュニケーション」と「信頼関係の構築」

ーお二人にとって、共同研究の「成功」とは何でしょうか?

片山
大学等の研究者にとっての共同研究の成功は、2つあると考えます。
1つ目は、研究成果が社会実装に至ることです。論文での成果発表にとどまらず、研究成果が製品・サービスなどに活用されることで、その研究が社会にもたらす価値は大きくなると考えています。

2つ目は、共同研究を通じて新たなアイデアを得ることです。仮に社会実装まで至らなくとも、企業との共同研究の過程で新しい発見や気づきがあれば、それも成功といえると考えています。

石切山
企業にとっての共同研究の成功とは、シンプルですが「目的の達成に向けて前進できていること」だと考えています。

今回のような先進的な研究の場合、次の研究開発段階に進むには、早くても5年はかかります。社会実装まで含めると10年以上かかる中で、当初の計画通りに研究が進むことはめったにありません。そこで重要になるのは、研究の過程で得たヒントを次のアイデアやアクションにつなげることです。場合によっては、臨機応変に方向性を変えることも必要になります。

新しく業界標準となるような製品を開発するためには、革新的な「キラー技術」が必要です。失敗を新たな発想につなげてアイデアを構築し、最終的にキラー技術を社会実装することが、企業に所属する研究者の役割だと思います。

ー共同研究を成功させるためのポイントを教えてください。

片山
共同研究に至るまでは、自分の専門との相乗効果が期待できるか、企業の問題意識に対応できるかどうかなど、企業ニーズを見極めることが重要ではないでしょうか。自分の強みを意識して、それを企業ニーズに上手に当てはめる発想が必要だと思います。

共同研究が始まってからは、密なコミュニケーションと信頼関係の構築が重要だと思います。思うように研究結果が出ていないことを隠したり、逆に進捗しているのに結果を小出しにしたりすると、企業に不信感を持たれてしまって、共同研究は上手くいかなくなります。可能な限り研究過程の挑戦や失敗を共有し、オープンに話し合うことがポイントだと考えます。

その意味で、共同研究相手となる企業が、知的好奇心を持って一緒に取り組む姿勢を見せてくれるとありがたいと感じます。例えば最初の面談の際に、一方的に研究者の話だけを聞き出すのではなく、企業の事情もしっかり共有してくれる企業だと、研究者としては安心感が高まります。

石切山
片山先生と同じく、若手研究者と企業の両者が、お互いの人となりを理解した上で密なコミュニケーションを行い、試行錯誤を繰り返すことがポイントだと考えています。片山先生とは、少なくとも2か月に1回は打ち合わせを実施することで相互理解を深めつつ、様々なテーマで意見交換を行っています。

共同研究は、実現したいことの方向性をすり合わせないと上手くいきません。コミュニケーションを通じてお互いの個性を認め合って、関係性を築くことで、双方に対して率直に意見を述べることができるようになります。

(左)大阪大学 片山祐(右)トヨタ自動車 石切山守

研究の深化だけでなく、人的ネットワークの拡充にもつながる共同研究

ー今回の共同研究を経て良かったと感じる点は何でしょうか?

片山
共同研究を通じて、企業の活動状況や考え方を学べたことです。社会実装までの道のりを具体的に理解することができましたし、研究成果を社会実装する上で乗り越えなければいけないハードルも見えてきました。このように、これまでに自分になかった新たな視点を得られたことに満足しています。

石切山
これまで、企業は全ての研究開発プロセスを内製化するのが一般的でしたが、今の世の中の変化の早さに追いつくにはそれでは不十分です。外部にある多様な研究シーズを活用し、スピード感を持って新しいアイデアを生み出すことが求められています。そのため、大学等の研究者や他の企業とのネットワークの重要性がこれまで以上に増しています。

共同研究を通じて片山先生と深いつながりを築けたことは、弊社にとって大きな財産となりました。このように人的ネットワークを拡充できることは、他では得がたいメリットではないでしょうか。

ー共同研究に関する今後の展望や想いを教えてください。

片山
地球温暖化の課題に対処するようなスケールの大きな仕事は、大学の中にいるだけでは取り組める機会が限られます。研究成果を社会実装してこそ、社会の課題解決の役に立つことができると思います。今回の共同研究では、トヨタ自動車様との連携を通じて、社会実装に向けて前進できる可能性があることに胸が躍ります。また、仮に社会実装に至らないとしても、自分のアイデアや研究成果が別の形で普及して、社会の課題解決につながれば嬉しいです。

石切山
共同研究はあくまでも手段であり、最終的な目的は社会や業界に大きな変革を起こすことです。弊社は、全ての人にモビリティを提供することで笑顔を生み出すことを目指しています。自分が携わる今回の研究がその一端を担うものになればよいと考えています。
また、日本の技術が世界に伍するためには、所属機関の垣根を超えた人的ネットワークの構築や、これまでにない新しい研究開発の形の探索が必要だと考えています。
今は、片山先生と一緒に、機械学習を用いた新しい研究にも挑戦しています。そのような挑戦や経験を積んで、日本の技術を世界に広めることに貢献できるような研究開発方法についても考えていきたいと思っています。

さいごに:「若サポ」を上手く活用し、まずは議論の場を持つことが重要

ーさいごに、今回の記事の読者に特にお伝えしたいことはありますでしょうか?

片山
社会実装を目指すからには、ニーズ起点で、「自身の研究活動のゴールはどこにあるのか」、「ゴールに向けてどのような企業ニーズがあり、それにどのように応えるのか」といったことを考えることが大事だと思います。「若サポ」で多くの企業と面談を行ったことで、このような発想を持てるようになりました。

企業の方には、「若サポ」を利用して積極的に研究者に声をかけてもらえればと思います。私もそうでしたが、多くの研究者は企業との議論の機会を望んでいると思います。

石切山
企業の方は、研究者へのファーストコンタクトの心理的ハードルを下げてみるとよいと思います。若手研究者の方々はスピード感があって発想も柔軟なため、オープンに議論しやすいですし、特に10年、20年先を見据えた新しい発想が必要な研究を行うときなどは、よきパートナーになってくれると思います。
(左)トヨタ自動車 石切山守(右)大阪大学 片山祐

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