新産業創出と次世代のイノベーション人材の育成を目指す「若サポ」

2024.05.24 Fri

国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)は、「エネルギー・地球環境問題の解決」と「産業技術力の強化」に寄与することを主な目的として掲げています。

新産業の創出に向けてNEDOが取り組む事業の一つに、官民による若手研究者発掘支援事業(以下、「若サポ」)があります。これは、大学等の若手研究者と企業との共同研究の形成を支援することにより、新産業の創出と次世代のイノベーションを担う人材の育成を目指す事業です。

「若サポ」を通じた若手研究者への支援内容や支援のポイント、「若サポ」を通じて実現したいことについて、「若サポ」の事業担当者であるNEDOフロンティアグループ主任 安部香菜子氏と、マッチングサポート業務を支援する株式会社野村総合研究所(以下、NRI)シニアコンサルタント 新治義久氏が対談しました。(以下、敬称略)

若手研究者と企業の共同研究をトータルでサポート

ー「若サポ」とは、どのような事業なのでしょうか?

NEDO 安部香菜子
安部
「若サポ」は、有望な研究シーズを持つ優れた大学等の若手研究者を発掘し、その研究・開発を支援することで、新たな産業の創出につなげることを目的とした事業です。そのための方策として、若手研究者と企業との共同研究の実現・推進を支援しています。

共同研究の多くは、研究者の人脈や、企業から大学等に所属する研究者への問い合わせをきっかけに始まることが多いですが、企業との接点を持つ機会が少ない若手研究者 にはチャンスがあまり巡ってきません。逆に企業の立場から見ると、研究実績を知る機会があまりない 若手研究者とは出会える機会も少なく、出会えたとしても判断材料が乏しいことから 、共同研究実施の意思決定をすることが難しいという問題があります。その結果、有望な研究シーズであっても、その将来性を 十分に活かしきれなくなってしまいます。

「若サポ」では、このような状況を背景に、優れた研究シーズを持つ若手研究者と企業との共同研究を実現するための支援を行っています。

ー具体的には、どのような支援をされているのでしょうか?

安部
支援の内容は、「マッチングサポートフェーズ」と「共同研究フェーズ」の2つの段階に分かれます。

「マッチングサポートフェーズ」では、企業との共同研究に関心のある若手研究者の提案を審査し、採択された場合には研究開発を推進するための費用を助成します。加えて、その研究者が企業との共同研究を実現できるように、研究シーズの「若サポ」事業ウェブサイトへの掲載やマッチングイベントの実施、企業からの要望を若手研究者にフィードバックする活動などの支援を行います。

「共同研究フェーズ」では、マッチングが成立した若手研究者に対して、企業が拠出する共同研究費用と同額(上限3,000万円まで)の研究費を助成します。この費用を上手に活用することで、研究費の総額を抑えつつ研究・開発の大型化や加速を図ることが可能となり、共同研究ひいては研究シーズの社会実装の加速につなげる狙いがあります。

ー共同研究を実現させる前提として、まずは興味を持ってくれる企業と出会う必要があるわけですね。

安部
そうです。また、共同研究を実現するためには、ネットワークを構築するだけでは足りず、企業とアカデミアの考え方の違いや、企業へのアプローチの仕方などを理解することも必要です。これらは、普段の研究生活では得ることが難しいと考えられます。そこでマッチングサポートフェーズでは、多くの企業とのネットワークを持ち、企業活動に関する知見を持つNRIなどの外部パートナーと連携しながら、若手研究者が共同研究相手となる企業を見つけるまでの伴走支援を行っています。

共同研究に至るための数々の支援策によりマッチングの成立を加速

ーNRIをはじめとした外部パートナーの役割について具体的に教えてください。

新治
私たちは主に研究者をサポートする業務を行っており、その内容は大きく分けて4つあります。

1つ目は、研究シーズの実用化に関する仮説をブラッシュアップする支援です。研究者の提案書を読み込み、ディスカッションなどを通じてその仮説を理解した上で、業界知見や調査結果の提供や、仮説をブラッシュアップするためのメンタリングを行っています。

2つ目は、企業とのネットワーク構築の支援です。「若サポ」事業ウェブサイトへの研究シーズの掲載や、マッチングイベントの開催などを通じて、研究シーズが企業の目に触れる機会を増やしています。特定の業界・企業にフィットするような研究シーズの場合は、「一本釣り」でコンタクトを行うプッシュ型コンタクトも実施しています。

3つ目は、企業とのコミュニケーションに関する支援です。上術した支援の結果、企業との個別面談に至った場合は、面談までの調整や面談当日の議事進行のサポート、面談後のフォローアップなどを行っています。この活動では、契約等の手続きに関するアドバイスや支援も行っており、若手研究者が所属する機関の産学連携担当者とも連携しながら進めるようにしています。

4つ目は、企業とのマッチングに向けた活動のポイントを共有する「産学連携セミナー」の開催です。セミナーは、若手研究者だけでなく、所属する機関の産学連携担当者にもお声がけし、上述した3つの支援のポイントや、特許権など知的財産権の考え方を共有しています。また、知的財産権については、特許庁・INPIT(工業所有権情報・研修館)と連携した講演や、アドバイザーの紹介も行っています。
マッチングサポートフェーズにおける支援の内容

若手研究者と企業のメリット

ー若手研究者にとっての「若サポ」のメリットをお聞かせください。

安部
企業との共同研究のきっかけをつくるには、研究シーズを企業が興味を示すような形でまとめ直して上手く伝える必要があります。しかし、若手研究者の中にはそのような経験がなく進め方が分からない方が多くいらっしゃいます。加えて、研究活動が多忙な中で共同研究マッチングに向けた活動にリソースを割くのも大変です。

「若サポ」に採択された若手研究者には、企業とのコミュニケーションの取り方など細かなことまで一緒に考え支援する体制を構築しています。また、新治さんの説明にもありましたが、NEDOやNRIなどが持つ企業とのネットワークを活用することで、多くの企業に研究シーズの情報が発信されます。この一連の過程では、共同研究に至るかどうかにかかわらず、若手研究者の方々が得るものも多いはずです。

NRI 新治義久
新治
若手研究者の皆さんは、学会発表などアカデミア内でのコミュニケーションに関してはプロフェッショナルですが、研究成果の発信に関する基本スタンスや重視すべきポイントは、アカデミア向けと産業界向けで大きく異なります。このような点を、具体例を挙げてレクチャーしていることについて、若手研究者や産学連携担当者からポジティブなご意見をいただいています。

安部
日本全国、地域を越えた産学連携を実現できることも特長の一つだと思います。特に地方大学に所属している研究者は、企業とのネットワーク構築に苦労されていると聞いています。「若サポ」を活用することにより、企業との接点ができるだけでなく、全国から共同研究のパートナーが見つかる可能性もあります。手前味噌ですが、NEDOの事業に採択されたということは、それだけでも企業へのアピールポイントになると思います。

ー企業にとってのメリットもお聞かせください。

安部
「若サポ」事業ウェブサイトやマッチングイベントでは、様々な分野の先生方の研究シーズに触れることができます。それにより、想像できなかった魅力的な技術を発見できる可能性もあります。まだ露出の少ない若手研究者のフレッシュなアイデアに触れることができる点は、「若サポ」活用の大きなメリットだと考えています。

共同研究へ進む場合も、よりスムーズに契約締結に至るよう、私たちがサポートします。また、企業の担当者が共同研究の意思決定を行う際にNEDOが採択した研究者であることが、判断の後押しになるといった声もいただいています。

若手研究者と企業、それぞれの支援ニーズに沿った橋渡し

ー取り組みを進める中で見えてきた課題はありますか?

安部
研究者によって企業との共同研究の経験値が異なるため、制度全体を進めながら各々に合った支援を行うことに難しさを感じます。共同研究の経験が全くない方もいれば、すでに多くの共同研究を実施している方もいますので、一人ひとりに適した支援をどのように提供すべきかを常に考えています。

また、企業のニーズが多岐にわたる中で、最適なマッチングの進め方を提案・実施することにも難しさがあります。企業のニーズや解決したい課題が明確であれば、議論も比較的スムーズに進みますが、ニーズが具体化されていない場合には、そのニーズを紐解くところから始めなければなりません。
加えて、共同研究に向けた意思決定を行う際には、そのときの企業の業績、事業方針、あるいは担当者との相性などにも大きく影響されます。その意味で、研究者と企業のマッチングは本当に一期一会だなと日々感じています。

ーそのような課題に対して、どのような取り組みが必要だとお考えでしょうか?

安部
共同研究の経験が少ない若手研究者には、企業とのコミュニケーションについて、メンタリングで個別にアドバイスするなど、手厚いフォローを心がけています。一方で、共同研究の経験が豊富な若手研究者には、企業へのコンタクトなど、研究者や大学が独力で推進することが難しい活動の支援に力点を置くようにしています。

新治
企業のニーズを紐解く活動という意味では、若手研究者が聞きづらいような企業の活動方針などについては、必要に応じて私たちが確認するようにしています。逆に、企業が聞きづらいような研究者への質問を、私たちが間に入って行うこともよくあります。限られた時間内で、可能な限り相互理解を深めてもらうことが、私たちの重要な役割だと考えています。

また、試行的にではありますが、特定の分野に関心のある若手研究者と企業担当者に集まっていただき、その分野における産学連携のあるべき姿と問題点を議論してもらうことで相互理解を深めるようなワークショップを開催するなど、敢えて若手研究者の支援から「はみ出す」ような取り組みも挑戦しています。

企業の事業方針、部署・担当者のミッションなどへの理解については、私たちに一定の知見があります。このような知見を活用して、若手研究者と企業とのネットワークを創出し、マッチング成立につながる確率が上がるように支援しています。

「若サポ」は、産学連携を実現するための新たなルート

ー「若サポ」を通じて実現したいこと、今後の展望についてお聞かせください。

安部
「若サポ」を通じて、若手研究者が産学連携に取り組むハードルが下がり、産学連携の機運が高まることを期待しています。「若サポ」に採択された若手研究者の皆さんが、産学連携を推進する先駆者になることで、「自分にもできるのではないか」と考える次の若手研究者も出てくるはずです。そのような「連鎖」によって、若手研究者の研究活動の選択肢の一つとして産学連携が定着していくことを期待しています。

将来的に研究者としてのキャリアを発展させる上でも、若手の時に社会実装に挑戦する経験を積んでおくことは重要です。ノーベル賞を受賞した研究者も、その実績を振り返ると、若手時代に社会実装に挑戦した研究が、後になって社会から高く評価されたケースが多くあります。その意味で、研究者が産学連携の経験を早期に積むことに貢献できれば嬉しいです。

新治
研究者や企業の方々と話をしていると、「従来の産学連携は、大学等の研究者と企業の個人的なネットワーク、あるいは大学内の師弟関係をきっかけとするものが多かったが、そうした個人的なネットワークは徐々に希薄になりつつある」といった声が聞かれます。

そのような状況下では、個人的なネットワークに依存しない産学連携を推進する機構が、ますます重要になってくると考えます。「若サポ」が、そのような役割を担っていくことを期待していますし、そのための支援を続けていきたいと思います。

また、安部さんが述べられたとおり、産学連携を次の世代の研究者にも波及させたいと考えています。実際に、支援している若手研究者の方から、「若サポ」での活動内容を学内のイベントで学生に紹介したいといった声をいただくこともあります。このように、次の世代にも産学連携の面白さや難しさを伝えてもらい、バトンをつないでいくことで、日本全体の産学連携の機運を高めていきたいと思います。

(左)NRI 新治義久(右)NEDO 安部香菜子