2022年度公募 seeds-3587 - 【近畿】 光合成生理学に基づく植物の栽培環境の最適化
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VISION

ビジョン

光合成生理学的基礎研究と植物栽培産業との連携

光合成活性に関与する生理指標を見つけ出し、植物の可食部収量の安定化、更に向上を目指す

現行の栽培法の検討では、栽培条件と収量を紐づけた検討が中心となっており、栽培途中での生理学的な検討材料が乏しい。ましてや圃場試験では、環境が刻々と変化するため、なかなか栽培期間中の要因と収量とを関連づけることが困難です。一方、植物工場では栽培環境を制御することが可能ですが、植物工場の技術開発はインフラ整備に傾いており、生理学的見地からみた栽培環境の最適化という取り組みはなされていないのが現状です。この提案では、収量と強い相関を持つ生理パラメーターを同定し、栽培期間中の環境と植物の生理状態との相関を把握することで、収量の安定化・向上を目指します。

USE CASE

最終用途例

単位エネルギーあたりの可食部生産効率を最大にするための栽培技術の確立

USE CASE 01植物の可食部収量と強い相関を持つ生理指標を制御し、単位エネルギーあたりの可食部生産効率の向上を目指す

APPLICATION

APPLICATION

植物工場における最適な栽培環境の構築

植物の生理状況は成長過程で変化し、それぞれのステージ毎で最適な栽培環境が異なります。栽培中の植物の光合成応答を把握することで、植物の成長過程に応じた最適な環境を導き出すことができます。

MARKET

MARKET

植物工場

植物工場では、膨大なエネルギー消費量が課題となっています。そのため、植物工場の運営が難しくなっており、社会的ニーズがありながらも、まだ我が国の主要産業とはなり得ていません。

IMPLEMENTATION

IMPLEMENTATION

植物工場における最適な光照射パターンの構築

植物工場では栽培中の光強度が一定に管理され、膨大なエネルギー消費の原因となっています。植物の光合成応答が弱い期間には必ずしも強い光は必要でないため、不要な光照射を省くことで省エネ化を図ります。

STRENGTHS

強み

植物生理学の基礎研究が、既存の農業を変える。

STRENGTHS 01

実用化困難と言われる植物生理学シーズを、農業の発展に活かす。

植物生理学の基礎研究成果が実装されたという例はありません。これは、栽培環境と収量を紐づけるという検証法が通常であり、環境が変化する圃場で再現性を得ることが難しいからです。栽培環境に連動する生理パラメータと収量との相関を把握する本提案は、これまでにない新しい試みです。

TECHNOLOGY

テクノロジー

植物の生理状況を非破壊的に把握できる評価系の構築

TECHNOLOGY 01

生理パラメーターの特定と、現場に導入できる分析方法の開発

科学的根拠に基づいて植物を理解することによって、生産性の安定化や収量の予測、植物工場の省エネ化、さらには科学の力を活用して栽培した野菜として、生産品のブランディングにも繋がる可能性があります。すでに私たち独自の研究から、近赤外分光測定で定量できる電子伝達タンパク質プラストシアニン (PC) が、作物における簡便かつ非破壊的な老化初期の指標となることが分かっておりますので、 PC以外にも植物の生理状態を示す指標は存在することが期待できます (Shimakawa et al. 2020 Plant and Cell Physiology 61, 1986-1994)。

PRESENTATION

共同研究仮説

これまでになかった学術研究と産業のコラボレーション

共同研究仮説01

専門性の高い光合成研究のシーズを、植物工場で実らせる

植物工場に最適な栽培環境の構築

実験室で得た結果を、ラージスケールで検証するためには、様々な栽培環境を安定して再現できる植物工場などの試験場をお貸しいただける企業との共同研究が必要不可欠です。また植物工場で開発を担当しているエンジニアの方々との協力により、次のAIの開発のための基盤づくりができると期待します。

RESEARCHER

研究者

嶋川 銀河 関西学院大学 生命環境学部 助教
経歴

<経歴>
神戸大学農学部・農学研究科(2009~2017年度)
海外特別研究員 CEA-Saclay研究所(2018~2019年度)
特別研究員PD 大阪大学太陽エネルギー化学研究センター(2020年度)
現職 関西学院大学生命環境学部(2021年度~)

<研究業績>
これまでシアノバクテリア、緑藻、珪藻、コケ植物、被子植物、サンゴなど多様な生物を用いて光合成研究を中心に計50報にのぼる学術論文を公表。その中で培われた光合成生物の培養・生理解析手法や変異体作製のための分子生物学的手法などの研究知識、経験、技術を活かして、現在は関西学院大学において細胞内構造と光合成との関係性を研究しています。2年間のフランス滞在中に得た人脈を活かして、現在も海外の共同研究者と研究活動を継続中であり、2022年度のフランス光合成会議では招待講演者の一人として登壇しました。

研究者からのメッセージ

自身の専門性をどのようにして産業に活かすか

自然科学における基礎研究は、学術的重要性が認められる一方で、その産業的出口の不透明性がしばしば問題視されます。とりわけ生物学における基礎研究は、物理・化学系の基礎研究課題と比べても「産業」との結びつきが弱い印象です。光合成の環境応答に着目した基礎研究に関する報告例は無数に存在しますが、これらの成果が実際に産業レベルでの実用化につながったという例を耳にすることはありません。最も大きな原因として、実験室と畑との栽培条件の違いがあり、天候など予期せぬ環境変化にさらされる施設園芸や露地栽培では、実験室での結果を再現することが難しく、また自然界における複雑な環境変化の中ではその詳細な原因を追究することも容易ではないことが挙げられます。本提案課題を通して、まずは天候などの予期せぬ環境変化の左右されない植物工場など実験室と近い環境での安定的なデータ収集を出発点とし、光合成生理学の産業的成功事例を生み出したいです。その中で基礎生物研究を行う若手研究者の「産業への貢献」に関する興味も高まるのではないかと期待しています。