2021年度公募 seeds-1786 - 【関東】 機能集積型固体触媒による芳香族化合物の環境調和的な新しい合成・変換技術の開発
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VISION

ビジョン

固体触媒を用いた新反応により, 有用な芳香族化合物を地球に優しい持続的な手法で作りたい

環境調和的な芳香族化合物のバルクケミカル合成プロセスを提案

芳香族化合物は液晶、香料、機能性高分子、染料、医農薬品、繊維、有機ELなど幅広い分野で我々の社会を支え、身の回りの至る所に存在するきわめて重要な化合物群です。芳香族化合物合成の大量合成では (バルクケミカル合成)、ベンゼンとプロピレンと酸素からフェノールとアセトンを合成するクメン法や、アンモニアを硝酸に変換し硫酸との混酸によりベンゼンをニトロ化した後水素還元してアニリンを合成する手法などが有名ですが、化学工業的に高効率に設計されているものの、多段階合成・多量の試薬・高温/高圧等を必要とするエネルギー多消費型プロセスとなっています。化学反応として本質的に環境負荷が大きいことが原因であるため、環境にやさしい新反応経路を開発して置き換える必要があります。そこで、本研究では、脱水素芳香環形成反応というシクロヘキサノンやシクロヘキサノールといった非芳香族化合物から芳香族化合物を合成する新反応に着目しました。例えば、アンモニアとシクロヘキサノールを基質としたアクセプターレス脱水素芳香環形成反応による選択的な第一級アニリン合成が実現できれば、すでに工業化されているプロセスと組み合わせることで、形式的にベンゼンとアンモニアからアニリンと水素を合成する理想的なプロセスになります。

ハロゲンのような脱離基に依存しない環境調和的なファインケミカル合成・変換プロセスを固体触媒で実現

芳香族化合物の合成・変換としてクロスカップリング反応は強力であり、例えば有機EL分野で重要なトリアリールアミンはアニリンとハロゲン化アリールをBuchwald–Hartwigカップリングで結合形成させることで精密に合成されています。しかし、こうしたクロスカップリングをはじめとするファインケミカル合成では、ハロゲンのような脱離基を利用するものが大半であり、ハロゲン化にも多くのステップがかかるほか、強酸が副生し中和に量論量以上の塩基が必要となります。加えて、錯体触媒のような均一系触媒が使用されるのが一般的であり、貴金属を使用し配位子も高価な場合でも触媒の再使用が行われないことが多く、生成物に金属種が混入してしまう場合もあります。そこで、ハロゲンのような脱離基に依存しない抜本的に新しい環境調和的な合成・変換プロセスとして、本研究では、固体Pd触媒を用いてシクロヘキサノンとアニリンを量論量で反応させることで、アクセプターレス脱水素芳香環形成により、水と水素のみが副生する環境調和的な形式で、種々のトリアリールアミン合成を実現しており、さらに多様な芳香族化合物の合成に応用できることが期待されます。

USE CASE

最終用途例

芳香族化合物は液晶, 香料, 機能性高分子, 染料, 医農薬品, 繊維, 有機ELなど幅広い分野の素材として注目

USE CASE 01重要な芳香族化合物を環境に優しく合成・変換

APPLICATION

APPLICATION

従来の環境負荷の大きい合成手法の置き換えと新たな機能性芳香族化合物の創製

脱水素芳香環形成反応を軸として従来のバルクケミカル・ファインケミカル合成プロセスを環境調和的なプロセスに置き換えることに加え、タンデム反応や不活性結合切断を軸として芳香族化合物を変換し、新たな機能性芳香族化合物を創製します。

STRENGTHS

強み

機能集積型固体触媒で開発する新反応によって発現する新たな選択性

STRENGTHS 01

オルト/メタ/パラ配向性に制限されずに置換基を導入

シクロヘキサノン等では容易に置換基を位置選択的に導入した基質が合成可能であり、脱水素芳香環形成反応により、芳香族化合物を基質とした場合のオルト/メタ/パラ配向性に制限されずに、多様な置換基を導入した芳香族化合物を合成できます。

STRENGTHS 02

機能集積型固体触媒で初めて実現できる高難度生成物選択性スイッチ

例えば、フラボノイド合成の選択性スイッチとして、層状複水酸化物 (LDH) 担体上にAuナノ粒子を担持したAu/LDHではタンデム型フラボン合成に成功しており、フラボン合成と同様の中間体から、CeO2担持Pd-on-Auナノ粒子触媒により未踏のオーロン選択合成に成功しています。

STRENGTHS 03

金属ナノ触媒により可能となる選択的不活性結合切断

金属ナノ触媒を適切に設計することで様々な不活性結合を選択的に切断することができます。例えば、これまで、チオールの形式的メタセシス反応、アルデヒドの脱カルボニル反応、アルキルアレーンのベンジル位選択的ボリル化等の開発に成功しています。

TECHNOLOGY

テクノロジー

各分子変換に合わせた段階的な機能集積型固体触媒の設計

TECHNOLOGY 01

各素反応の達成に必要な機能を集積し, 固体触媒特有の触媒能を活かすことで目的反応を達成

目的反応を素反応に分解して必要な機能を抽出し、固体触媒の構成成分であるI) 担体、II) 活性主成分、III) 助触媒、IV) 構造の順に機能集積型固体触媒を合理的に設計し、通常の均一系の錯体触媒では発現困難な特有の触媒特性を活用して、芳香族化合物を環境調和的に合成・変換します。

TECHNOLOGY 02

本質的に環境に優しい固体触媒を用いた有機合成

固体触媒を用いると、触媒の回収・再使用が容易であり、金属種混入のおそれもありません。資源戦略の観点からも触媒を容易に繰り返し再使用できる固体触媒は魅力的です。近年は高効率な液相フロー合成も発展してきており、固体触媒は本質的に環境に優しい触媒です。

PRESENTATION

共同研究仮説

固体触媒を用いた環境調和的な合成・変換プロセスを一緒に実用化しませんか

共同研究仮説01

開発した触媒・新反応シーズを各ニーズの芳香族化合物合成・変換プロセスに合わせてチューニング

実際に合成プロセスを改革し環境負荷を大きく低減するには、企業の実プロセスで使用されることが必要不可欠です。反応機構をベースに、各ニーズの芳香族化合物合成・変換に合わせて、さらなる機能集積やプロセス全体を考えた最適化等を行い、実用化を目指します。

EVENT MOVIE

イベント動画

RESEARCHER

研究者

谷田部孝文 東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻
経歴

2020年1月–現在       東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻 助教 (山口研究室)

2019年10月–12月      日本学術振興会特別研究員PD

2019年9月–12月       スイス連邦工科大学チューリッヒ校 訪問研究員 (Prof. Christophe Copéret)

(令和元年度日本学術振興会若手研究者海外挑戦プログラム)

2018年11月–12月      産業技術総合研究所触媒化学融合研究センターケイ素化学チーム

(東京大学統合物質科学リーダー養成プログラム インターンシップ)

2017年4月–2019年9月 日本学術振興会特別研究員DC1

 

学歴
2019年9月 東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻 博士課程修了 (山口研究室)

2017年3月 東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻 修士課程修了 (水野・山口研究室)
2015年3月 東京大学工学部応用化学科卒業 (水野研究室)

 

受賞歴

2022年  ICAT Young Lectureship Azuma Award (触媒科学研究所東記念若手講演賞)

2020年  東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻 工学系研究科長賞 (研究, 博士)

2019年  第123回触媒討論会 学生優秀講演賞

2018年  日本化学会第98春季年会 学生講演賞

2017年  第50回酸化反応討論会 優秀ポスター賞

2017年  16th Korea-Japan Symposium on Catalysis (KJSC) Oral Presentation Award

2017年  東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻 工学系研究科長賞 (研究, 修士)

2016年  第9回GSC Student Travel Grant Award (新化学技術推進協会GSC ネットワーク会議)

2015年  第5回CSJ 化学フェスタ2015 最優秀ポスター発表賞 (日本化学会)

 

Webページなど

ORCID: https://orcid.org/0000-0001-5504-4762

researchmap: https://researchmap.jp/yatabe

研究者からのメッセージ

固体触媒特有の新しい分子変換を開拓し, 環境に優しいものづくりを推進したい!

均一系触媒による既存反応を固体触媒に置き換えるのではなく, 固体触媒特有の触媒特性を活かして固体触媒にしかできない有用な新規分子変換を開発することで, 環境に優しい固体触媒の使用が必須となる新しいプロセスを実用化していきたいと考えています。