2022年度公募 seeds-3582 - 【中部】 蛋白質の熱凝集の人工的な抑制に向けた高温での可逆的なオリゴマー形成の 物性解析
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VISIONビジョン

VISION

ビジョン

最小限のアミノ酸変異で、蛋白質の熱凝集を最大限に抑制する

熱凝集の前駆体とされる高温での可逆的なオリゴマー(RO)に注目しながら

失活や抗体医薬品の免疫原性の増加による有効性・安全性の低下につながるなど、蛋白質凝集はバイオテクノロジー産業において好ましくない現象とされてきました。その一方で一部の小型蛋白質では、熱変性した時に高温で可逆的なオリゴマー(RO)を形成し、温度を下げれば一分子へと解離するという非常に珍しい現象が発見されました。そこで蛋白質凝集の前駆体とされるRO形成のメカニズムを解明し、蛋白質凝集を未然に防ぐことで、蛋白質製剤の品質管理において深刻なトラブルを回避できると期待されます。

USE CASE

最終用途例

「高温でのRO形成の物性解析」で得られた知見をどのように活用するか?

USE CASE 01蛋白質に備わった本来の構造・機能を変えずに、熱凝集傾向性だけを低下させた変異体を設計する

APPLICATION

APPLICATION

僅か一残基のアミノ酸置換を応用した新規分子設計法の開発

結晶構造中のオリゴマー接触面に存在する疎水性アミノ酸を一残基だけ置換し、ROの効果的な阻害を試みる。これによって蛋白質凝集を大幅に抑制でき、また蛋白質分子全体への影響は最小限にとどまると期待される。

USE CASE 02蛋白質がROを形成しうる溶媒条件を予測し、水溶液中で凝集するリスクをあらかじめ低下させる

APPLICATION

APPLICATION

蛋白質製剤を保管・利用する環境の最適化

同一の蛋白質でも、pHを等電点に近づける・蛋白質濃度を上げる・塩濃度を増加させることでRO形成が促進されるという知見をもとに、ROおよび蛋白質凝集が生じにくい溶媒条件を検討する。

STRENGTHS

強み

蛋白質の不可逆的な熱凝集の前駆体とされるROに注目し、独自の視点から蛋白質製剤の品質管理に役立てる

STRENGTHS 01

僅か一残基のアミノ酸を変えるだけで、ROが効果的に阻害される

複数の種類の小型球状蛋白質で、オリゴマー接触面の疎水性残基がRO形成に重要であるという共通の性質を発見し、疎水性の低いアミノ酸に一残基置換するだけで、RO形成が効果的に阻害されることを発見した。そして元の立体構造・機能・他の物性には殆ど影響せず、RO形成能だけを特異的に低下させたと考えられる。

STRENGTHS 02

ROが阻害されることで、蛋白質の熱転移が単純化される

蛋白質が熱変性してROを形成するとき、示差走査熱量計(DSC)測定では2本の吸熱ピークが観測されるなど、複雑な熱転移が起きてしまう。ところがROを阻害した変異体では吸熱ピークが1本に減るため、シンプルな熱転移モデルを用いることで熱安定性の評価を高精度で行うことが可能になる。

STRENGTHS 03

ROが阻害されることで、蛋白質の熱凝集も大幅に抑制される

脳のシナプス後肥厚の足場蛋白質(PSD95-PDZ3)に対して、上記の手法でROを阻害した変異体を設計したところ、ROの阻害だけでなく、アミロイド線維の形成も抑制されることが分かった。アミロイド線維は神経変性疾患の原因としても注目されており、本研究手法を医療・製薬の分野にも応用しようと計画して

TECHNOLOGY

テクノロジー

「どのアミノ酸がRO形成に最も重要であるか?」蛋白質の立体構造情報からオリゴマー接触面を解明していく

TECHNOLOGY 01

疎水性アミノ酸の一残基置換による疎水性相互作用の制御

ROの阻害に成功した蛋白質の共通点として、結晶構造中のオリゴマー接触面に存在する疎水性アミノ酸をターゲットにし、疎水性の低いアミノ酸に一残基置換した点が挙げられる。したがって複数の分子間ではたらいている疎水性相互作用がRO形成の駆動力であると考えられ、RO阻害を目指した分子設計法の開発でも注目している。

TECHNOLOGY 02

荷電性アミノ酸の一残基置換による静電的相互作用の制御

蛋白質のRO形成にはpH依存性があり、溶媒のpHが蛋白質の等電点に近づくほどRO形成が起こりやすいと判明している。したがって荷電性アミノ酸を電気的に中性なアミノ酸へ一残基置換し、同じ符号の電荷を分子表面に帯電させることで、溶液中での分子間の静電的な反発によってRO形成を阻害できると推測している。またアミノ酸変異を導入しなくても、溶媒のpHやイオン濃度を制御することで、同様に分子間の静電的な反発を促進でき、RO形成の人工的な抑制に向けて溶媒条件の最適化も必要だと考えられる。

PRESENTATION

共同研究仮説

蛋白質製剤の品質向上を目指して、凝集傾向性以外の性質を変えずに、組換え蛋白質の変異体を作製する

共同研究仮説01

共同研究仮説01

ROの阻害を利用して蛋白質凝集によるトラブルを回避する

生物学的に重要な機能をもった蛋白質でも、溶解性・熱安定性の低さが原因で凝集してしまう場合、産業用酵素・抗体医薬品として製品化するのは難しい。そこで本研究提案で開発した「ROを阻害するための一残基置換による分子設計法」を利用し、凝集傾向性を低下させた変異体を設計することで、蛋白質製剤の開発に役立てる。

RESEARCHER

研究者

早乙女 友規 長岡技術科学大学 物質生物系 助教
経歴

2019年9月 東京農工大学 工学府博士後期課程 卒業
2019年10月 東京農工大学グローバルイノベーション研究院 特任助教
2020年12月 長岡技術科学大学 生物機能工学専攻 助教

その他の情報(研究業績など)は、以下のサイトを参照していただければ幸いです。
https://researchmap.jp/tsaotome502

研究者からのメッセージ

蛋白質工学の技術を生かしてバイオ産業への貢献を目指す

本研究手法を用いることで、蛋白質の本来の機能を損なわずに熱凝集のリスクだけを大幅に低下できると期待されます。そして本技術を実用化することで、バイオ産業における機能性蛋白質分子の物性改良および蛋白質製剤の品質向上に役立ち、バイオ産業に大きなメリットをもたらすと予想しています。もし研究内容に興味がある方は、気軽にご連絡いただければ幸いです。